日本社会は、今や「一発レッドカード社会」と言っても過言では無いでしょう。SNS上で、失敗した人を、総たたきにする風潮になっています。
しかし、現代の社会は、失敗から学ぶことで、安全で便利になってきたことを、忘れてはいけません。
失敗が原因で、会社で部下の叱ったり、家庭で子供を怒ったりしている方は、本書を読んだ後、人間性の厚みが増して、彼らへの接し方が大きく変わるでしょう。
お勧めの一冊です。
一つのミスが大事故につながる航空業界から学べること
航空業界の事故発生率は、自動車事故の確率よりも圧倒的に低いと言われています。業界全体で、トラブルの情報とその改善方法を共有を続けてきた。つまり、失敗を隠蔽せず、失敗からみんなで学習することで、飛行機事故を極限まで減らしてきたのです。
逆に医療業界では、医療ミスは日常茶飯事。医療業界では、ミスをミスと認めず、隠蔽する風潮が職場に存在し、失敗がフィードバックされにくいことが大きな原因だったことがわかっています。
航空業界の事例から学べることは、失敗しても、失敗した人の責任を追求するのではなく、失敗が二度と起きないよう対策することが第一をする「企業文化」が、最も重要であることです。
日本でも、20年ほど前に、JR西日本で悲惨な列車事故が起きました。あの事故も、列車の遅れの責任を運転手に擦り付ける、企業ぐるみの文化が問題の根本にあったのです。
正解を考えるのではなく、失敗を繰り返して正解をあぶり出す
「失敗から学ぶ」ことをもう少し拡張して考えると、事前に様々な計算や検討をして、目指す仕様を満たす商品やサービスを目指すよりも、多くのパターンを試しながら、結果が悪かったもの、つまり「失敗」を排除し、良いものを残しながら、より良いものを目指す方が、目標への達成が速いことが多いです。
私も、工場の製造ラインで利用する機器の開発をしていたことがありますが、机上で考えるよりも、テストラインを動かしながら、色々な形状やシーケンスを試しながら考えた方が、欲しい性能を実現できることが多かったです。
難しい目標でも、一瞬でも達成できれば、それを安定する方法を考えればよいわけです。一瞬でも達成してないものを、一から作り上げるのは効率が悪いです。
成功が実は失敗であることもある
「成功と考えられていたことが、実は失敗だった」そんな恐ろしいことが、実は世の中には存在するのです。
治験などでは「ランダム化比較試験」という手法を利用して、効果を検証します。簡単に言うと、治療を行った群と、治療を行わない群に分けて、比較するのです。
治療によって、60%の人が治癒したとしても、治療を行わない群は、80%治癒したとしたら、その治療法は逆に治療を妨げていることになります。
本書で、古代に行われていた瀉血(体内から血を抜く治療)と、近代になって行われた不良少年の刑務所見学プログラムの例が紹介されていました。
後者は、不良少年が、刑務所の酷さを知り、更生するという内容です。ドキュメンタリー映画化されて、絶賛の嵐となりましたが、後日、ランダム化比較試験で検証したら、全く効果がないどころか、逆に犯罪率が上がってしまったとのことです。
ネットショップのウェブページの改善の効果などはABテストといって、新旧のページを50%:50%で交互に表示させれば、どちらが商品が売れるかを、事実を元に明らかにできます。
何かの効果の検証を行うには、注意深い調査が必要だということです。
失敗は尊いもの
サッカーやバスケットボールなどで、誰もが息を呑むスーパーゴールでも、それまでの積み上げてきた何万回もの失敗シュートの上にあると考えることができます。
野球でも、バッターの打率は高くても30%です。残りの70%は失敗に終わっています。スポーツは失敗の繰り返しで形成されると考えれば、失敗は尊いものだと感じるでしょう。
失敗から学ぶ姿勢は、現代社会では不可欠なものです。ところが、最近の日本の風潮は「一発レッドカード社会」とも言えます。一度失敗すると、二度と這い上がれない、もしくは非常に時間がかかります。
確かに犯罪などは、悪いことですが、人間は失敗をする生き物です。誰だって魔が差すことはあります。世の中は失敗で溢れています。
失敗をした人を攻撃するのではなく、失敗そのものを議論し、より良い社会を目指す文化が広がって欲しいと思います。
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