今年の夏の高校野球は、日大三高のエースの熱投と、そつのない集中打で頂点を極めました。
開幕以来、連日猛暑が続いていいましたが、最後の決勝戦だけは気温が下がり、朝からの試合ということもあって、涼しい中での試合となりました。もし、例年のように暑い日で昼13:00開始ならば、また違ったゲーム展開になったかもしれません。
高校野球のように、日本のスポーツ大会はノックアウト方式の「トーナメント」がほとんどです。毎試合が真剣勝負となり、見る側としては面白いですが、選手の育成には不向きだということで、リーグ戦を押す声も大きいです。果たして、どちらが良いのでしょうか?
Utsunomiya Japan 25/Oct/09 / kei-ai
人生はトーナメント戦
2007年の佐賀北や、2009年の日本文理など、決勝戦の終盤に劣勢のチームがビッグイニングを作るゲームは多いです。トーナメント方式による連戦の疲れに暑さ、そして観衆の熱気が、とんでもない番狂わせを起こすのです。高校生の選手達には酷ですが、見ている側としては、これほど面白い展開はありません。甲子園の高校野球には、ドラマが生まれる要素が色々仕込まれているのです。
トーナメントのノックアウト方式だと、メンバーは固定されやすく、選手の疲弊が大きいため、選手の育成には向かないという側面があります。また、一発勝負では本当の実力はわからないという理由から、リーグ戦方式を押す声は多いです。
ところで、「本当の実力」とは何なのか?ということです。大学入試などは、一発勝負の要素が強いです。人生の成功は、目の前に現れた一瞬のチャンスを掴めるかどうかにかかっていると言われます。私見としては、本当の実力とは、ノックアウト勝負の中で培われるものかなと思っています。
北京五輪の女子ソフトボール、プロ野球のWBC、サッカーのアジア杯でも勝ち進むほどに異様な強さを発揮していた気がする。その競技の代表になるような選手は「ノックアウト社会」の生き残り。あまりに当たり前すぎて当人たちに自覚はないのかもしれないが、彼、彼女らには一発勝負を潜り抜ける素養がおのずと身についているのではないか?
via: 8/19 日経新聞 アナザービュー(武智幸徳)
世界で活躍できる実力を身につけるには、ノックアウト方式で痺れる試合を重ねる必要があるように感じます。その一方で、全体の底上げをするために、リーグ戦の拡大も必要です。サッカーのワールドカップのような、予選はリーグ戦で、決勝はトーナメントのハイブリッド方式、いわゆる折中方式がベターな気がします。リーグで複数の試合をすることでチャンスを増やしつつ、最後の勝負はノックアウト方式で極限まで力を引き出せます。
2009-06-28 練習試合 : ラインアウトから / Sekikos
育成はトーナメントでもできる
「今日は25人くらい出ましたか?ゲーム経験を積ませるには、原っぱでやってちゃダメなんですよ。実戦じゃないと。グァハハハハハ」
via: Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2011年 9/1号 p65
常総学院の木内監督は、地区予選の準々決勝までの毎試合で、ベンチ入りの選手をほぼ全て使い切ります。
試合に出して、選手の動きを観察し、最後の3試合を勝ち抜けるメンバーを選ぶのだとか。強豪チームでしかできない方法ですが、まずチーム内で「リーグ戦」をして、決戦に向かう戦い方は、理にかなっていると思います。
IMG_0974 / andrew_D_Lin
一発勝負だったら、俺らが勝つで
さて、この木内監督といえば、1984年に取手二高を率いて、あの桑田・清原を擁したPK学園を破って優勝し、その3年後に常総学院を引き連れて決勝まで進んで、再びPL学園と対戦しています。立浪、野村、橋本、片岡というプロ選手を輩出した年代のチームです。このときはPL学園が常総学院を圧倒しました。
1985年と1987年のPL学園は、どちらも「最強」の呼び声が高い完成されたチームと言われています。この両チームが対戦したら、どちらが勝つかという話題は今も尽きません。野村が清原に「どちらが勝ちますかね?」と聞いた時の、清原の回答がすごく興味深いです。
野村は一度だけ、清原に同じ質問をぶつけたことがある。
「一発勝負だったら、俺らが勝つで」
清原はそう答えたあと、こう付け加えた。
「でも、10回やったら、負け越すかもな」
via: Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2011年 9/1号 p31
リーグ戦とトーナメント戦の特質をうまく表現している感じました。
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