写真フイルム市場は2000年をピークに、10年後には1/10まで落ち込みました。
富士フイルムは社名の通り、写真フイルム事業から多くの利益を稼ぎだしてきた企業です。一気に本業が消失してしまい、ライバルの米コダックは破産してしまいましたが、富士フイルムはしぶとく生き残っています。
富士フイルムの軌跡は、一業種に頼るビジネスの恐ろしさ。そして、自らの長所を別の業種にどう展開していくかを学べる貴重な実例です。
成果だけで判断せず「本当にできる人」を抜擢する
古森社長は写真フイルム事業出身ではなく、印刷事業部の出身です。前大西会長が古森社長を抜擢した判断は大きかった。
富士フイルムといえば、フイルム事業部がエース中のエースです。もしフイルム事業出身者がトップになれば、フイルム時代の価値感を引っ張り続けて、大きな改革をできずにコダックの二の舞いになったかもしれません。
自らのビジネスを蒸発させるにはどうすればよいかを考える
理容業者が、地域に規制をかけて1000円カット屋を排除したり、薬販売業者が、ネット販売に規制をかけたりする活動は、焼け石に水です。結局のところ、消費者にとって便利でお得なものが残っていくのです。
新しい勢力に怯えるのではなく、自らが新しいビジネスモデルにチャレンジしていかないと、滅亡の道を進むことになります。
経営者が最も考えるべきことは「自らのビジネスを蒸発させるにはどうすればよいか」です。リスクヘッジしつつ、新たなビジネスチャンスを生み出すための「質問」です。
富士フイルムは、フイルム事業を拡大させる一方で、自らのドル箱であるフイルム市場を叩き潰す「デジタルカメラ」を早くから開発を始めていました。技術先行のメリットは大きく、現在のデジタルカメラ市場の中でも、富士フイルムは地位を築き続けています。
「得意」と「儲かる」が重なる領域を狙う
ビジネスにおいて、自分が得意な分野を攻めることは大切です。しかし、収益性が低い分野で頑張っても、結果が出にくいです。
得意な分野の中で、収益性の高いところを集中して攻める意識が必要です。
富士フイルムは、化学関連の優秀な技術者を多く抱えています。これまでは、フイルム事業に優秀な人材をつぎ込んでいましたが、現在は化学知識やノウハウを活かせる、別の収益性の高い分野へ人材を投入しています。薬品、医療、化粧品など、化学技術を活せる収益性の高い分野です。
富士フイルムは生き残れるか?
ドル箱だったフイルム事業がほぼ消失して、利益がごっそりなくなってしまいました。米ゼロックス社との合弁会社だった富士ゼロックスの株を75%取得して、連結対象にしたことで、売上と利益が伸びているように見えるだけで、フイルムの利益分がすっぽり穴が開いていることに変わりはありません。
フイルム事業に代わる、メチャクチャ利益率の高いビジネスを生み出せなければ、いわゆる優良企業の座からは転落して、普通の企業になってしまいます。大規模なリストラは引き続き行われるでしょう。フイルム事業全盛時代の高い人件費を維持できるほどの体力は無いはずです。
本業消失の危機を何が何でも乗り越えた、という新たな歴史を作ることができれば、いつの時代でも生き残っていけるDNAを企業文化に植えつけることができます。
日本の本当のたくましさを魅せつけることができるか?
富士フイルムの頑張りは、日本企業の将来の試金石になると思います。
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