宅急便のドライバーは過酷な業務を行うため、入れ替わりも激しく、慢性的に人手不足です。佐川急便の場合、入社希望であれば、髪型がパンチパーマでもまずは受け入れるそうです。
佐川急便の強みは、この世間一般企業の底辺2割を積極的に採用し、そこで新たにできた2:6:2のなかの、底辺の2割を見捨てなかったことです。
むしろこの上位2割グループ以外の、下8割の人間をしっかりと育てることで、会社全体を強くしていったと言っても過言ではありません。
佐川急便の場合、それは面接の時点から始まっています。パンチパーマでヒゲを生やしてガムを噛んで、4つ折の履歴書を出してくるようなヤツでもまず採用します。
いわゆる「ややこしい人材」を徹底的に教育し、リーダーや管理職に鍛えあげていくノウハウが、佐川急便にはあります。マネジメントの本質は「人をいかに動かすか」です。究極の現場で培われた「人心掌握術」は、どの職場でも応用できるものがあるでしょう。
責任は上から取る
出した指示・命令は、必ず自分自身で無事遂行されているか確認せよ。責任はすべて上から取る。
この件では、係長・主任は減給。私は厳重注意のみにとどまりました。そして、佐川人生のなかで、この上司3人に頭が上がることはありませんでした。
「上司が部下の責任を取る」とは、組織の大前提で、本来当たり前の話です。ところが、係長が部長と課長と一緒になって、部下を叱っているような場面を、以前働いていた企業で見かけたことがあります。
係長は従業員のため、課長は係長のために盾になることで、下の人間は安心して仕事に打ち込めます。上司のためにも頑張ろうと思うことで、組織で一番大切な「信頼感」が生まれるのです。
BOSS-2-2 / U.S. Army Alaska
徹底的に褒める
大勢の前で、しっかりと褒めちぎることです。
部下が褒められたい人の前で、ベストなタイミングで褒めてあげる。また顧客訪問した際の、顧客からの部下への好評判なども、必ず公表しましょう。少し話しを盛るくらいでもかまわないと思います。
この効果は絶大です。
顧客からの好評判を、大勢の前で褒められると、会社や上司の見ていない場所においても、部下たちは、善行を続けるようになります。
人材育成には、「褒める派」と「しかる派」があります。私は「褒める派」に賛成です。もちろん場合によってはしかる必要はあると思いますが、しかりすぎると、人間は萎縮して「失敗しないように」行動するようになります。リスクをとらないと、大きな成功はできません。客商売で笑顔が出ないのは痛恨です。
後顧の憂いなく、部下が気持ちよく動けるメンタルを整えることは、上司の重要なタスクだと思います。なによりも、褒められる側は嬉しいですし、褒める側も楽しいです。職場は明るいほうが良いですよね。
Il Boss della situazione / MizaPhoto
声は大きいほうが良い
「それとな、会議でも声の大きいヤツの意見は通りやすい。
少々間違えたこと言うてても、みな、なんとなく迫力に負けて引き込まれるんや。
もう一つ言うと、職場に声の大きいヤツがおるとまわりも元気になる」
自分に自信がないと、大きな声でハッキリ意見を述べることはできません。逆に自信があっても、声が小さいと、聞いている側からすると、頼りなく聞こえてしまいます。
メラビアンの法則という有名な法則があります。人を判断するとき、人の見た目などが55%、口調や話すスピードが38%、そして、話の内容はたったの7%の割合であるというものです。話す内容よりも、身なりや話し方といった外見の方が重要であることは、心理学的に証明されています。
Words World Web – 21 Maggio 2011 / BTO Educational
言い方一つで全てが変わる
部下に対する依頼のし方ですが「わるいけど」と言うだけで、より素直に動きます。そして、それに対する感謝の気持ち。「ありがとう」という言葉が少なすぎるのではないかというのをひしひしと感じていました。
「ちょっとわるいけど無理聞いてくれへん?こういう理由があって今日行かれへんねん。負担かけるけど頼むわ。わるいけど頼むわ」
部下が常に気持ちよく仕事ができれば、それが職場の収益に繋がり、自分の評価となるのです。部下は上司の査定を上げるために働いてくれているのです。上司は部下に感謝しなければなりません。
人はロジックでは動きません。感情で動きます。人を使う立場になったら、言葉の威力を理解しておきましょう。話し方一つで部下の動きが変わってくるのです。
Jeffrey L. Sturchio, David Homeli Mwakyusa, Shrey Viranna, Andy Wilson, Gene Falk, Doyle B. Word – World Economic Forum on Africa 2010 / World Economic Forum
議論は徹底的にする
「仕事に関するケンカは、いくらやってもええ、お互いが一生懸命にやっているからこそ、議論になるんや。その後は一緒に飲みに行って、サウナ浴びて終わりじゃ!」
組織において、コミュニケーション不足は致命的になります。チームで仕事を分担しているわけですから、1人の遅れが全体に遅れにつながります。問題が発生したときに、言った言わないといった水掛け論は最悪です。
メンバー各員が違和感を抱いても、発言できない雰囲気があると、コミュニケーション不足につながります。ちょっとした意見でも吸い上げる、風通しの良い職場の雰囲気つくりをすることは、上長の役割です。
BOSS awards, conference cap busy year for single Soldiers 090902 / familymwr
上司の仕事は部下に気持ちよく仕事をしてもらう環境を作ること
結局、そういう悩みは仕事に影響し、支障をきたしてきます。考え事をしたりしていると、ミスを起こしたり、最悪な場合、事故を起こしたりするケースもあります。私は部下が仕事をしやすい環境づくりというのを自分のなかで掲げていました。
家庭のことを引きずって職場に来るわけですから、管理者としてはそれを取り除いてあげないと正常な一番ベストな状況で働かせることができません。なにか問題があるときは、スッキリした状態にさせてあげたいものです。
人生は仕事とプライベートで成り立っています。両方を明確に分けてやりくりする考え方もありますが、私は区別せずに自然体の方が良いと思っています。旅行中に仕事のことを考えてもよいし、仕事中にプライベートのことを思い出すのは普通です。
佐川急便は、自動車を利用して配達業務を行います。取り扱い方を間違えれば凶器になります。公私問わず、時には家庭問題にまで頭と突っ込んで、心配ごとや気になることをなるべく取り除いてからドライバーを配達へ出発させる姿勢は、泥臭いように見えて、合理的だと思います。
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「ややこしい人材」を徹底的に教育し、リーダーに鍛えあげるノウハウ
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