過去に経験したことがある作業を、その度に一から考えて行うのは思考のムダだと思う時があります。車にチェーンを装着するなど、年に一度しか行わないような作業は、コツをすっかり忘れていたりします。
アナタはなぜチェックリストを使わないのか?【ミスを最大限に減らしベストの決断力を持つ!】
必要最低限の作業チェックリストを作っておけば、「チェーンはどうやって装着するんだっけ?」と不安を感じながら運転する必要はなくなり、雪上での安全運転に集中できます。ムダに脳のパワーを裂く必要がなくなり、より重要なことに集中できるようになります。
世の中は覚えることが多すぎる
多くの分野のトレーニングは今までにないほど長く、より濃密になっている。
医師も教授も弁護士もエンジニアも、何年間も週60時間から80時間を費やし、知識と経験を充実させてから独り立ちする。既にこれだけの研鑽を重ねているのだ。
ここからさらに技術を大幅に向上させることは不可能に近いのではないだろうか?
私が住んでいる地域では、ゴミを捨てるにも一苦労です。まず、燃えるごみと資源ごみを捨てる場所が違います。粗大ゴミはゴミの種類ごとに分別して、電話で予約してから、「燃えるごみ」の場所に置いて引き取ってもらいます。古紙回収は3つくらい回収業者がいて、ある業者は、古新聞は玄関先、ダンボールはマンションの入り口に置いて、回収してもらいます。別の業者は「資源ごみ」の場所で引き取ってもらいます。色々なパターンがあって、全部覚え切れません。
Remote controls at Mom’s house / aprilskiver
ゴミの分別に限らず、車のナビゲーションにセルフ給油機の操作、携帯電話、デジタルカメラなど、日頃から利用しているもの一つ一つに対して、覚えなければならないことが、世の中には多すぎます。
医療現場では治療法や薬が増え続け、飛行機は計器やスイッチが増え、あらゆる場面で、作業が複雑化しています。どんなに優秀な人間でも、作業数が爆発的に増えれば、どうしても間違いが発生してしまいます。そんな状況を簡単に改善する方法があります。それがチェックリストです。
原因はもっと根深いように思う。
私たちは、チェックリストを使うのは恥ずかしいことだと心の奥底で思っているのだ。
本当に優秀な人はマニュアルやチェックリストなんて使わない、複雑で危険な状況も度胸と工夫で乗り切ってしまう、と思い込んでいるのだ。
チェックリストを利用することは、恥ずかしいことではありません。自分の記憶力や思考能力が弱いことを周りに示すことではなく、確実に作業をするためのツールです。記憶に頼ると、いつかかならず間違いが発生します。大失敗をすることの方が、何千倍も恥ずかしいことだと思います。
Moving house / alancleaver_2000
簡単なことはチェックリストに任せ、重要なことに集中する
チェックリストばかり見ていると心のないロボットのようになってしまう、と思い込んでいる。だが、実際には、良いチェックリストを使うと真逆のことが起きる。
チェックリストが単純な事柄を片付けてくれるので、それらに気を煩わせる必要がなくなる。昇降舵がセットされているか、抗生物質は投与されたか、経営者が持ち株を全部売り払っていないか、全員が状況を理解しているか、などをいちいち気にしないで済むのだ。
その分、どこに着陸すべきか、などの難しい問題に専念できる。
2009年にアメリカで起きた、両翼のエンジンが停止した旅客機がハドソン川に不時着した事故では、乗員乗客は全員無事でした。落ち着いて適切な指示をした機長の方が英雄とされました。
US Airways Flight 1549 Plane Crash Hudson in New York taken by Janis Krums on an iPhone / davidwatts1978
しかし、後の調査によって、乗員たちは緊急時の中、チェックリストに忠実に従い行動をしたことが大惨事を免れた最大の要因だったことがわかりました。脳は色々な情報を処理することができますが、多くのことを一度にやろうとすると、リソースが分散してしまい、優先すべき、本当に重要なことを処理する能力が落ちてしまいます。基本的な確認事項はチェックリストに任せて、「より安全に着陸するには、どこがよいか」という、最重要かつ難しい問題に集中できたのです。まさに「脳の断捨離」と言えるでしょう。
医療現場では、世界各国の8つの病院に、チェックリストをテスト的に導入して、合併症の発生率は全体で36%下がり、死亡率は47%下がったという、驚異的な効果が得られました。逆を返せば、それまでは、人の命を扱う場で、ケアレスミスが公然と行われていたのです。ぞっとしますね。
Briefing. / ianmunroe
複雑な問題はコミュニケーションで解決する
複雑な状況では、先が見えないので不安が募りがちだ。だが、建築業界の人々はコミュニケーションの力を信用している。
たとえ経験豊富なエンジニアであろうと、一個人の力は当てにしない。彼らが信頼するのは集団の力だ。複数人を問題に取り掛からせ、チームとして判断してもらう。
「人」は誤りやすい。だが、「人々」は誤りにくいのではないだろうか。
チェックリストには、途中でチームでコミュニケーションする時間を確保する項目を必ず入れます。全員が情報を共有することで、間違いに気づく可能性が高くなります。全員が名前だけの自己紹介をするだけでも、その後の作業中に、問題を提起したり、発言しやすくなることが心理学的に認められています。
短時間のコミュニケーションをするだけで、集団が一つの「チーム」として機能するようになるのです。
Off to Distant Pastures / ~Shanth
権限を分散する
本当に複雑な状況、つまり一個人で知るのは不可能な量の知識を必要とし、不確定要素が多い状況では、中央から全てを指示しようとすると必ず失敗する。
これがハリケーン・カトリーナの本当の教訓だ。
各自が柔軟に行動できる余地は与えるが、お互いに協力しあい、共通のゴールへの進み具合を確かめるといった制約も設ける。
複雑な問題に対処するには自由と制約の適度な配合が欠かせない。
複雑な問題は、権限を分散させることで、よりスムーズに解決に向かいます。2005年のハリケーン・カトリーナの災害時には、権限を中央に集中させた政府の救援策はまったく機能しなかったそうです。
逆に、大手量販店のウォルマートでは、社長が現地の店舗に対し、「自分が持つ権限以上の決断を下さなければならない状況もたくさん発生すると思う。手元にある情報を元にベストの決断をしろ。そして何より、正しいことをしろ」というシンプルな命令のもと、各支店長が的確な行動をして素晴らしい活躍をしたということです。
チェックリストを使う場合、チェックを行う人は、その場の上長ではなく、一般メンバーから選ぶことで、権限を分散したほうが効果的だとされています。看護師が全てのチェックを終えるまで、外科医はメスを持つことが許されない病院もあるそうです。自分が患者の立場だったら、安心です。
A Wild Question / [F]oxymoron
原発事故でチェックリストは機能したのか?
福島第一原発にも危機管理用のチェックリストが存在したはずです。果たしてチェックリストは事故時に機能したのでしょうか?また、チェックリストの内容は妥当だったのでしょうか?中央に権限が集中して、現場が身動きできなかったことは無かったでしょうか?
おそらく、想定外の被害ということで、チェックリストはほとんど機能しなかったと思います。しかし、コミュニケーションの場は確保できたはずです。事故直後に東電、原子力保安院、政府の間で、適切なコミュニケーションは行われたのでしょうか?被害をもっと減らせた可能性はなかったのでしょうか?専門化の方々には、徹底的に調査をして欲しいと、本書を読んで思いました。
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脳を断捨離して、最大のパフォーマンスを引き出す「チェックリスト」の威力
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